山本コータロー

白鷗大学

この素敵なコラムの執筆者として、なぜ私のような者に白羽の矢が立ったのか、今も解せない。丁重にお断りしたのだが、担当の方は熱心であられた。その熱意に心が溶けた。書けるとしたら何だろう?と考え始めた。

私は、東京で生まれ育った男である。自立してからは、ロスアンジェルスやロンドンで暮らしたこともあるけれど、基本的には都内を転々としていた。栃木県とおつきあいするようになるのは、‘87年に私が県南の小山市にある白鷗大学の非常勤講師となってからである。講師時代は週に一日、教授となってからは週に二日、東京と小山を往復した。約20年にわたるとはいえ、実質は束の間の栃木在住だ。

白鷗大学

しかし、幸いにして県内のあちこちからお声をかけていただき、講演などで各地を訪れることも増えた。下野新聞の取材で日光の奥に足を踏み入れたこともある。今、地図を見れば、県内の市・町の過半にお邪魔していることに気づいた。う〜む、そうなるとささやかながら“栃木人”かもしれない。

話しを元に戻そう。なぜ私がこの欄で書かせていただくか、である。実は、大学の教師達が一様にうなずくのは、栃木に住む人々は、この地域の素晴らしさをあまり認識していないという点なのである。外から見ると、本当に良いもの、素敵なところがあるのに、栃木の住民の皆さんは、それを主張することがない。それどころか、気づいてさえいないように見えるというのだ。このことについて、こちらへ移り住んだ何人もの大学教員達は、異口同音に声を上げる。

岩舟花センター

例えば、東京と岩舟町との二地域生活を堪能している樋口前経営学部長は、こう語る。

「ここ岩舟は穴場ですよ。東京と比べたら信じられないほど星がきれい。つまり空気が良いってことね。そして、日当たりも最高。なのに土地が安い!そして、私のような生活をしている者にとっては、交通アクセスも大切だが、これも充実している。新幹線だと小山から東京まで約40分。新宿へ直通の快速もある。一方で、車で移動する場合も、東北自動車道をはじめ道路網がけっこう整備されている。このロケーションは得がたいですよ。」と、ベタほめなのだ。

岩舟直売所

さらに話は続く。

「それでね。まわりはちょっと行けば温泉。それに、山ね。日光の山もあるけど、近所の散策も楽しい。そのうえ、地域の方々の人柄がまた良い。親切だし、おっとりしているというか、奥床しいというか・・・。地域の皆さんの人間関係に深入りしないとか、我々が心するところはあるけれど、でも、お互いに素直な気持ちでつきあえば、すんなりですよ。」と、人々との触れ合いも満喫している様子。

クリフステージ

「文化がね。古い文化伝統がもちろんあって、一方でね、新しい文化へのチャレンジもある。ここではそれに参加できるって感じがあるのね。例えば、岩舟山の野外コンサート(正式には“岩船山クリフステージ”)。もう7〜8年続いていて、北関東一円はもちろん東京からも人が来て、3千人くらい集まる。それを地元のみんなが中心になってやっている。いいんだよ、これが。」

おっと、すっかり岩舟町の広報マンのような口調になってきましたね。そのくらいに惚れ込んでいる樋口教授なのだ。

小山評定 小山町の駅

もう一人、ネパールに住んだり、東京に居たりとボヘミアン的生活を楽しんでいた結城教授も小山市に定住して久しい。

「まず大事なのは、生活に全然困らないってこと。当たり前ですけど、何でもある。買物もそうだし、交通も至って便利。自然もすぐそこにある。僕は小山の街中に住んでいるんだけど、車でちょっと行けば、山あり谷あり川あり温泉あり。びっくりしたのは、転入当初、近所の人から『お神輿をかつぐか。』と聞かれて、『やりますよ。』と答えたら、はっぴその他一揃いをすぐに持ってきてくれたこと。想像していた本当の人情味っていうのはこんな感じなのかなって、とっても嬉しかった。町の劇団に引っ張り込まれて舞台に立ったり、家が街中だから気軽に飲める店も近くにあって、そこの客には同世代が多く、親の介護のことなんかで本音の話ができたりするんですよ。」と、これまたとても栃木に浸り切っている様子だ。

そば

栃木について語る教授達に共通しているのは、この地域の豊かさである。米、野菜、果物といった農産物だけではない。うなぎは美味な店が町ごとと言っても良いほどにあり、そばはそばで、そば打ち名人が各所にいる。古来の文化伝統だけでなく、地域おこしの機運もみなぎっている。大都会では疎遠になりがちな人と人との接点が、至るところにさりげなく存在する。もちろん、風光明媚な山々や温泉の名所も枚挙にいとまがない。いやいや、こう書いてくると、つい私の真情も露呈してしまうようだ。

率直に言おう。今後は大学が許してくれる限り教員として居座って、栃木県内の温泉地に居を構え、ギターをかかえて放歌高吟する生活を、真剣にイメージするこの頃なのである。


【プロフィール】

山本コータロー山本コウタロー [フォークシンガー・白鷗大学教授]

1948年 東京都千代田区生まれ。
一橋大学社会学部卒業。
大学在学中にフォークバンドを結成。“ソルテイーシュガー”で「走れコウタロー」が大ヒットし、日本レコード大賞・新人賞を受賞。
大学卒業翌年には“山本コウタローとウイークエンド“で「岬めぐり」が大ヒット。
TV・ラジオのパーソナリテイ・司会をはじめ、講演等に活動の幅を広げる。
1986年白鷗大学講師(マスコミ論)に、1999年白鷗大学経営学部教授(社会学)、2007年同大学教育学部(社会学)に就任。
2005年デビュー35周年を迎え「ほぼウイークエンド」で音楽活動再開。
2007年から定年を迎える団塊の世代にむけて、セカンドライフをいかに有意義に過ごすかを、「息 食 動 想」をキーワードに講演。また次世代に向け何を伝え、継承すべきかを考える。
2008年春よりTBSドラマ「渡る世間は鬼ばかり」に準レギュラー出演。

主な著書
「ぼくのピースメッセージ」(岩波ジュニア新書)「ぼくのエコロジーライフ」(労働旬報社)
「耕せコウタロー」(家の光協会) 「自然な関係」(教育史料出版会)