6限目:日光ミステリー学 東照宮謎解き旅

おとなのSTUDY TRIP in とちぎ 2

世界遺産・日光東照宮に隠された数々の謎を、髙藤先生の解説とともに読み解く「日光ミステリー学」。参道の向きや彫刻、建築に込められた意味、家康公が描いた壮大な宇宙観(コスモロジー)をひもときながら、東照宮、滝尾神社、杉並木、例幣使街道へと旅を進めます。さらに鹿沼市、栃木市へと足を延ばし、歴史や文化、街並みに残された手がかりを巡る2泊3日の謎解きの旅。見るだけでは気づかなかった物語を、一つひとつ読み解いていく。そんな新しい楽しみ方をご紹介します。

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1日目

spot 1 日光東照宮 01にっこうとうしょうぐう

東照宮は、コスモロジーでできている

「コスモロジー」とは、北極星や北斗七星、太陽、東西南北など、宇宙の秩序を人の世界に重ね合わせる思想のこと。髙藤先生は、日光東照宮そのものが、この壮大な宇宙観に基づいて築かれていると考えています。
その思想は、参道に立った瞬間から始まります。一見まっすぐに見える参道ですが、実は真南から約6.5度ずれて造られています。その延長線上には江戸城があり、反対側の北を見ると陽明門の上には北極星が位置します。北極星を中心に北斗七星をはじめとする星々が規則正しく巡るように、この参道の角度にも家康公の明確な意図が込められていると髙藤先生は読み解きます。
家康公は、日光を宇宙の中心となる場所に定めることで、死後は神として日本全土を守り続けようと考えました。その壮大な構想は、参道の向きからすでに表現されているというのです。さらに、その世界観は日光だけで完結しているわけではありません。家康公の遺言によって祀られた久能山、芝増上寺、大樹寺、そして日光山という四つの地も、髙藤先生は単なるゆかりの場所ではなく、方位や位置関係まで計算して配置されたと考えています。
家康公は、未来永劫、平和な世を守り続けるために日光を選び、自らが神として祀られることまで計画しました。そして北極星や北斗七星の思想を取り入れながら、死後も日本を守るための壮大な舞台を、この地に築き上げたというのです。
つまり東照宮とは、一つの社殿ではありません。参道の向き、祀りの地の配置、建築、そして彫刻。そのすべてが、「未来永劫、平和な世を守り続ける」という家康公の願いを形にした、一つの「コスモロジー」なのです。

Study Point

「五重塔をよく見ると、干支の彫刻が方角に合わせてぐるりと配置されています。注目していただきたいのは、正面を向いている干支です。家康公は寅年、二代将軍・秀忠公は卯年、三代将軍・家光公は辰年。この三つの干支が、ちょうど五重塔の正面に並んでいるんです。東照宮に虎や辰、つまり龍の彫刻が多いのも、こうした将軍たちの干支と深く関係していると考えられます。」

最初にある石の鳥居は、一の鳥居と呼ばれています。中央に掲げられた「東照大権現」の文字は、畳一畳分のサイズがあるそう。

spot 2 日光東照宮 02にっこうとうしょうぐう

絵解きで読み解く、東照宮の彫刻

豪華絢爛な彫刻で知られる日光東照宮。髙藤先生は、「東照宮に意味のないものは一つもありません」と語ります。そこには、平和への願い、家康公の思想、そして職人たちの遊び心まで、すべてが込められています。東照宮は、ただ眺める場所ではなく、「絵解き」をしながら歩く場所なのです。
まずは表門。目を引くのは、鼻の長い二種類の動物です。一頭は象。そしてもう一頭は、実は獏(ばく)です。見分けるポイントは、獏(ばく)のくるくると巻いた後ろ髪です。獏(ばく)は鉄や銅を食べるとされる想像上の生き物。そのため、鉄製の武器があふれる戦乱の世には生きられず、平和な時代にしか存在できないと考えられていました。つまり、獏(ばく)が彫られていること自体が「天下泰平」の象徴。門の両脇に立つ仁王像、地上最大の動物・象とともに、空想上の獏(ばく)が東照宮を守る"最強のガードマン"なのです。
続いて神厩舎(しんきゅうしゃ)の「三猿」。有名な「見ざる・言わざる・聞かざる」は、単なることわざではありません。神厩舎(しんきゅうしゃ)には猿の一生が8面にわたって描かれており、その一場面が三猿です。幼い子どものうちは、悪いものを見せず、悪いことを聞かせず、悪い言葉を覚えさせない。これは、当時の幼児教育の考え方を表しています。三猿だけを見て終わるのではなく、物語全体を読むことで、本当の意味が見えてきます。
髙藤先生は、こうした彫刻を読み解くことを「絵解き」と呼びます。ただ眺めるだけでは見えてこない、平和への願い、教育への思い、そして粋な遊び心。一つひとつの意味を知りながら歩くと、日光東照宮はまるで壮大なミステリーを読み解く舞台へと姿を変えるのです。

Study Point

「神厩舎(しんきゅうしゃ)の向かいにあるのが上神庫(かみじんこ)。ここは祭りの道具を納める蔵ですが、『蔵(ぞう)』と『象(ぞう)』をかけて、約2メートルもある大きな象の彫刻が施されているんですよ。本殿から少し離れた場所だからこそ、こんな粋な遊び心を忍ばせたのでしょう。東照宮は厳かな神社ですが、こうしたしゃれやユーモアが随所に散りばめられています。一つひとつの彫刻に込められた意味を『絵解き』しながら歩くと、職人たちの遊び心や、『訪れた人に楽しんでもらいたい』という粋な心意気まで見えてくるんです。」

神厩舎(しんきゅうしゃ)の神馬は、基本的には午前10時ごろから正午ごろまでいることが多いです。

spot 3 日光東照宮 03にっこうとうしょうぐう

絵解きで読み解く、家康のマニフェスト

いよいよ東照宮の中心、陽明門へ。「日暮門(ひぐらしもん)」の異名を持ち、その美しさから、一日眺めていても飽きないといわれる名門です。しかし、本当の見どころは豪華な装飾ではありません。それらに刻まれた一つひとつの彫刻が、家康公の思想を伝える「メッセージ」なのです。
陽明門には508体もの彫刻が刻まれています。人物や龍、霊獣など、一つとして意味のないものはありません。なかでも人物の彫刻は最も高度な技術を要するとされ、この場所が東照宮の中心であることを物語っています。その中央に据えられているのが、中国・北宋の司馬光が、水がめに落ちた友人を救うため、高価な水がめを割ったという故事。「何よりも命を大切にする」という教えを、東照宮の中心に掲げた家康公の強い意思が読み取れます。
さらに奥へ進むと現れるのが「眠り猫」。その裏には雀が彫られています。本来なら天敵同士の猫と雀が共存しているのは、争いのない平和な世の象徴です。その手前には波と鶴、裏側には蜜柑。鶴は天と地を行き来する神聖な鳥、蜜柑は『古事記』『日本書紀』にも登場する「常世の国」の果物であり、不老長寿の薬です。そして、その先には家康公が眠る奥宮があります。家康公は死後も常世の国とこの世を行き来しながら、永遠に平和を守り続ける──そんな願いが込められていると、髙藤先生は読み解きます。
髙藤先生は、この一連の彫刻を「家康公のマニフェスト」だと表現します。それは未来永劫、平和な世を築き、死後もその平和を守り続けるという揺るぎない決意の宣言。東照宮とは豪華な建築物ではなく、家康公が未来へ託した壮大なメッセージであり、その強い意思を刻んだ"マニフェスト"だったのです。

Study Point

「有名な「逆さ柱」は、魔よけとして知られています。しかし、東照宮で「あえて完成させない」という思想が見られるのは、この一本だけではありません。五重塔は最上層だけ垂木の様式が異なり、手水舎の屋根の四隅のうち一箇所が意図的に切り落とされています。こうした“あえて揃えない”意匠には、完全を避けることで末永い繁栄を願う意味が込められていると伝えられています。」

陽明門の龍に見えるこの彫刻は、実は「息」という謎の霊獣。髙藤先生は古代中国で神格化されていたワニが原型なのではと考えていますが、正体はいまも謎に包まれています。

spot 4 大光坊たいこうぼう

坊で味わう、日光湯波の新しいかたち

世界遺産・日光山内を歩いた後に、ぜひ立ち寄りたいのが「大光坊」。人気レストラン「妙月坊」の姉妹店として2023年にオープンした茶寮で、かつて宿坊があった歴史ある場所にあります。ここで味わえるのは、日光の食文化を支えてきた伝統の味。料理はすべて肉を使わない精進料理をベースにしており、湯波や豆腐を使ったヘルシーなメニューは、海外から訪れるヴィーガンの方にも人気です。
おすすめは、老舗の生湯波をたっぷりのせた「生湯波丼」。ご飯には、味噌や醤油のルーツともいわれる古代の発酵調味料「ひしお」を使い、歴史の味わいをさりげなく感じられる一杯に仕上げています。もう一つ味わいたいのが、山内に古くから伝わる郷土料理「筍腐汁(じゅんぷじる)」。かつて「五十院百坊」と呼ばれるほど多くの僧侶が暮らしていた時代に親しまれていたと伝わる、素朴でやさしい味わいです。実は、日光の湯波文化も天台宗の総本山・比叡山から伝わった食文化が始まりといわれています。歴史を巡ったあとに味わう一皿は、日光の文化や信仰を、"おいしく"体感できる旅の締めくくりになるはずです。

あんみつやパフェ、お抹茶など、カフェメニューも充実しています。

spot 5 滝尾神社たきのおじんじゃ

1200年前から始まっていた物語

東照宮の奥へ歩みを進めると、滝尾神社があります。髙藤先生は、この地に伝わる伝説こそが、家康公が日光を選んだ理由を解く最大のヒントだと考えています。
約1200年前、弘法大師・空海が白糸の滝で修法を行っていたとき、池から大小二つの玉が現れました。その玉は自らを北極星の化身と名乗り、「世が乱れ、人々が善の心を失ったときには再び現れ、人々を守る」と告げたと伝えられています。そして、大きな玉のお告げによって、この地の女神が祀られ、滝尾神社が創建されたといわれています。さらに空海は、この地を「二荒山」から「日光山」へ改めたとも伝えられています。
二つの玉のうち、小さな玉は現在も日光山輪王寺の児玉堂に祀られています。一方、大きな玉は北極星の化身「妙見尊星」として中禅寺湖畔の妙見堂に祀られていましたが、明治時代の土石流によって失われました。今もなお、この伝説は日光の地に受け継がれているのです。
約800年後、天下統一を成し遂げた家康公は、この伝説を知ったうえで、自らが神として祀られる場所に日光を選んだのでは、と髙藤先生は読み解きます。それは、自らが神となることで、未来永劫、平和な世を守り続けるため。江戸城との位置関係、北極星とのつながり、そして東照宮に込められた数々の意味。それらはすべて、死後も平和を見守り続けるために家康公自身が描いた壮大な構想だったのではないか。そう考えると、日光東照宮は単なる歴史遺産ではなく、家康公が未来へ残した壮大なミステリーとして、その姿を現し始めるのです。

Study Point

「大きな玉が祀られていた妙見堂は、明治時代の土石流で失われてしまいました。しかし近年、二荒山神社によって妙見社として再建されたことは、本当にうれしい出来事でした。北極星の化身である妙見尊星を祀る場所が再びこの地によみがえったことは、日光の歴史や信仰を未来へつないでいく大きな意味があります。多くの人に、この場所に込められた物語や祈りを知っていただき、実際に足を運んで感じていただきたいですね。」

東照宮から児玉堂を経由しながら、滝尾神社へ歩いていくのもおすすめ。

spot 6 小槌の宿 鶴亀大吉こづちのやど つるかめだいきち

日光の夜に、余韻をほどく隠れ宿

東照宮の壮大な謎を読み解いた一日の終わりは、その余韻にゆっくり浸る時間も旅の楽しみ。世界遺産エリアのほど近く、大谷川沿いに佇む「小槌の宿 鶴亀大吉」は、日光の自然と歴史を身近に感じられる、招福をテーマにした宿。客室や露天風呂からは四季折々の山並みや渓流を望み、秋には色鮮やかな紅葉が旅の締めくくりを彩ります。館内には「縁起の間」「招福の間」、露天風呂付き客室「至福の間」など、"福"をテーマにした個性豊かな客室が用意されています。なかでも「至福の間」は、「金運」「長生き」「出世」「幸福」の4つのテーマで設えられた特別室。「長生きの間」や「末広がり」を思わせる縁起尽くしの空間で過ごすひとときは、旅の思い出をさらに豊かなものにしてくれます。
昼に出会った東照宮の建築や歴史を思い返しながら、温泉に身をゆだね、静かな夜を過ごす。朝になれば、再び世界遺産へ歩いて向かうこともできます。日光を"見る旅"だけで終わらせず、"余韻まで味わう旅"へ――。そんな滞在がかなう一軒です。

最上階の展望露天風呂・大浴場は、日帰り入浴もできます。

2日目

spot 7 BEAMS JAPAN 日光びーむすじゃぱんにっこう

伝統を、いまの感性で選ぶ。

東照宮表参道の入口に店を構える「BEAMS JAPAN 日光」。日本の魅力を国内外に発信するBEAMS JAPANの地域共創型店舗のひとつで、「地元の良さを、地元の人が伝える」をコンセプトに、日光ならではのものづくりを発信しています。観光案内所のように気軽に立ち寄れ、スタッフとの会話から新たな日光の魅力に出会えるのも、このお店ならでは。店内には、日光彫や御神木を活用したアイテムなど、土地の歴史や文化を感じる品々が並びます。なかでも注目は、昨日見た、陽明門の「逆さ柱」の文様をモチーフにしたオリジナルステッカー。「完成した瞬間から崩壊が始まる」という思想から、あえて一本だけ逆さに造られた柱の物語を、日常に持ち帰ることができます。
そのほかにも、五十嵐漆器店による繊細な日光彫や、斎藤木材店が手がける御神木のコースターなど、地域の職人とともにつくり上げたアイテムが充実。ここで出会えるのは、お土産ではなく、日光の物語そのもの。自分用はもちろん、大切な人へのお土産探しにぴったりです。

コースターは店頭に出るとすぐ売れてしまう人気商品です。

spot 8 日光街道杉並木にっこうかいどうすぎなみき

なぜ、ここだけ一里ではないのか。

世界一長い杉並木が続く日光街道。その道にも、髙藤先生が解き明かした一つのミステリーが隠されていました。本来、一里塚は約一里(約4km)ごとに築かれるものです。しかし、七本桜から瀬川までの距離だけは、一里に届きません。「なぜ、ここだけ距離が短いのか。」その答えは、もう一本の道「例幣使街道」にありました。
例幣使街道は、朝廷から日光東照宮へ勅使・例幣使が派遣される際に通った重要な街道であり、戦国時代は日光・鹿沼・壬生を結ぶメインルートでした。髙藤先生が調査したところ、例幣使街道最後の一里塚・室瀬から瀬川までの距離は、ちょうど一里。つまり、この区間は、かつて例幣使街道を基準として整備された名残ではないかと読み解いています。その後、日光街道の整備を宇都宮城主となった本多正純が進めたことで、街道の主役は例幣使街道から日光街道へと移っていった―と髙藤先生は考えています。
これらの街道を象徴するのが、世界一長い杉並木です。徳川家の家臣・松平正綱が、家康公への報恩の思いから日光街道、かつては壬生街道と呼ばれていた例幣使街道、会津西街道の三街道に杉を植え、家康公三十三回忌に東照宮へ寄進しました。歴史を知ると、一本一本の杉が、ただの並木ではなくなります。一里塚に残された距離の謎、時代とともに主役が入れ替わった街道、そして家康公へ捧げられた人々の祈り。そうした背景を知ることで、日光杉並木は江戸時代の歴史を静かに語り続ける、壮大な歴史ミステリーとして見えてくるのです。

Study Point

「日光杉並木を後世に残していくためには、手入れをしながら守り続けることが必要です。今も『日光杉並木オーナー制度』によって、多くの方が保全活動を支えています。これは、イギリスで始まったナショナルトラスト運動にも通じる、『地域の宝をみんなで守る』という考え方です。400年前の人たちが残してくれたこの景色を、これからも未来へつないでいってほしいですね。」

七本桜の一里塚には、並木ホテルと呼ばれる大きな空洞のある杉があります。

spot 9 野点庵のだてあん

例幣使街道の途中で味わう、旅人の一服

杉並木で一里塚の謎をたどったあとは、例幣使街道の面影が残る文挟エリアにある「野点庵」へ。街道から少し田舎道へ入ると、緑に包まれた静かな森の中にお店が現れます。かつて旅人が街道沿いでひと息ついたように、歴史を感じたあとの余韻をゆっくり味わいたくなる一軒です。
店内に響くのは、そばをひく音。こちらでは、石臼で自家製粉したそば粉を使用しています。荒めにひくことで、そば本来の豊かな風味を引き出し、青々とした香りと、噛むほどに広がるやさしい甘みを楽しめます。つゆは、小野口商店のたまり醤油を使い、かつおだしをしっかり利かせたまろやかな味わい。田舎そばらしい力強さがありながら、どこか上品で洗練されていて、余計なことをしないシンプルなおいしさが際立ちます。店を切り盛りするのは2代目ご主人。週末はもちろん、平日でも県外から多くのそば好きが訪れる名店です。歴史を歩き、土地の味をいただく。そんな街道旅にぴったりです。

名物のそばがきは、ねっとりとした食感に味噌の風味がよく合う人気の一品。

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spot 10 まちの駅 新・鹿沼宿まちのえきしんかぬまじゅく

地元の人に親しまれる、旅の立ち寄りスポット

日光東照宮の建立をきっかけに宿場町として栄えた鹿沼。その歴史を今に伝える「まちの駅 新・鹿沼宿」は、観光案内や特産品、地元グルメがそろう、鹿沼観光の立ち寄りスポットです。トイレ休憩をしたり、鹿沼らしいお土産を探したり、旅の情報を集めたりと、ドライブの途中にも気軽に立ち寄れます。なかでも人気なのが物産館。約500軒の鹿沼市内の農家から、その日の朝に収穫された新鮮な野菜や果物、加工品が毎日届きます。利用者の半数以上が地元の人ということからも、新鮮さと品質への信頼の高さがうかがえます。旅の途中でひと息つきながら、鹿沼のおいしいものや魅力に出会える場所。鹿沼ならではの特産品はお土産におすすめです。

鹿沼市には100を超える「まちの駅」があり、その数は全国最大規模を誇ります。

spot 11 古峯神社ふるみねじんじゃ

天狗は、なぜこの山に宿るのか。

鹿沼の山深く、大芦川の源流近くに鎮座する古峯神社。古くから「天狗の社」として信仰を集め、多くの参拝者が全国から訪れます。この一帯は、日光を開いた勝道上人が修行を重ねた地のひとつと伝えられ、山そのものが修験道の舞台でした。険しい峰々で自然と向き合い、心身を鍛える修行の歴史が、この山には今も息づいています。神社で親しまれる天狗は、ただの伝説の存在ではありません。古くから山を守り、人々を正しい道へ導き、災いを払い、願いを叶える神使として大切にされてきました。力強くもどこか神秘的な姿は、山岳信仰そのものを象徴しているかのようです。
東照宮が緻密な思想や宇宙観で平和を願った場所だとすれば、古峯神社は、雄大な自然の中で神仏と向き合い、山の力をいただく祈りの場所。栃木には、まったく異なる二つの信仰の世界が今も息づいています。さらに古峯神社では、宿坊に宿泊することも可能。朝夕の澄んだ空気に包まれながら山で過ごす時間は、参拝だけでは味わえない特別な体験です。天狗が宿ると伝わる山で一夜を過ごせば、この場所が長く人々の信仰を集めてきた理由を、少しだけ感じられるかもしれません。

宿坊に宿泊すると、翌朝「一番祈祷」に参列することができます。

spot 12 油伝味噌あぶでんみそ

味噌蔵で生まれる、もう一つの発酵ミステリー

翌日は、例幣使街道沿いに広がる蔵のまち・嘉右衛門町へ。その入口で迎えてくれるのが、天明元年(1781年)創業の油伝味噌です。約250年にわたり味噌づくりを続ける老舗ですが、実は今、この蔵でもう一つの"発酵"が始まっています。それが、クラフトビール「油伝麦酒」。味噌屋としてのアイデンティティを込め、少量の味噌を加えて醸造された一杯は、フルーティーで爽やかな味わい。田楽との相性も抜群で、味噌のコクをすっと引き立ててくれます。もちろん、主役は創業以来受け継がれてきた味噌。品質を左右する麹は、今も昔ながらの製法で少量ずつ手づくりされています。「幕末の頃から、味はほとんど変わっていないのではないでしょうか」。そんな言葉からも、長い歴史への誇りが伝わってきます。
併設する田楽処では、こんにゃくや豆腐、里芋など、それぞれの素材に合わせて味噌を使い分けた田楽を楽しめます。さらに、8代目は嘉右衛門町が重要伝統的建造物群保存地区に選定されるまで約20年にわたり尽力した人物。味噌を守り、蔵を守り、そして町を守ってきた老舗だからこそ、新しい発酵文化にも挑戦できるのかもしれません。

店舗の北側に、8台分の専用駐車場があります。

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※別メニューのお食事をした方に限ります。

spot 13 中華そば とちの葉ちゅうかそば とちのは

一杯の中に隠された、醤油の謎

歴史ある町並みが残る嘉右衛門町にある「中華そば とちの葉」。100年以上前の味噌工場の一部をリノベーションした趣ある建物で味わえるのは、素材と醤油にとことん向き合った一杯です。落ち着いたカウンター席だけの空間は、「あなただけのラーメン時間」を楽しんでほしいという想いから。いただいたのは「熟成醤油そば」。麺を持ち上げた瞬間、熟成醤油の芳醇な香りがふわりと立ち上り、食欲を誘います。スープは野菜を使わず、鶏と水だけで丁寧に仕上げたもの。那須御養卵を産む親鶏を使うことで、鶏本来のうま味を引き出しています。そこへ、鶴醤(つるびしお)を使ったかえしを合わせることで、キレのある醤油の存在感と、まろやかなコクが絶妙なバランスに。旅の終盤、少し疲れた体にもすっと染み渡るような味わいです。
2023年のオープン以来、県内外から多くの人が訪れ、来店客は県内・県外がおよそ半々。それでも何度も足を運ぶ地元のお客さんが多いことから、この一杯が地域にも愛されていることが伝わってきます。歴史ある町並みの中で、現代の職人が仕掛ける"味の謎解き"を、ぜひ楽しんでみてください。

七味なめたけを、ちょっとずつスープになじませながら味変するのがおすすめ!

spot 14 岡田記念館おかだきねんかん

この町が「嘉右衛門町」と呼ばれる理由

歴史ある町並みが人気を集める嘉右衛門町。その名前は、この地で550年以上続く旧家・岡田家の当主が代々受け継いできた「嘉右衛門」に由来しています。江戸時代、岡田家は未開の土地を切り拓き、地域の発展に大きく貢献。その功績から、「嘉右衛門町」という地名が生まれたと伝えられています。その歴史を今に伝えるのが「岡田記念館」です。約3,000坪の敷地には、江戸時代から残る屋敷や土蔵が立ち並び、代々受け継がれてきた美術品や暮らしの道具を展示。畠山氏の陣屋や岡田稲荷、樹齢約400年の大ケヤキなど、見どころも点在しています。
1978年、ディスカバー・ジャパンブームをきっかけに、25代嘉右衛門が屋敷を一般公開。当時は「旧家開放」として大きな話題となり、今も岡田家が大切に守り続けています。館内を巡ると、建物だけでなく、この町がなぜ栄え、今も多くの人を惹きつけているのかが自然と見えてきます。

館長は、第26代当主である岡田嘉右衛門氏が務めています。タイミングが合えば、ガイドしていただけることも。

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spot 15 物華 工藝と喫茶ぶっか こうげいときっさ

手仕事にふれる、旅の終着点

日光東照宮の壮大な謎から始まり、街道や宿場町の歴史をたどってきた旅。その締めくくりに訪れたいのが、嘉右衛門町の「物華 工藝と喫茶」です。歴史ある建物に足を踏み入れると、器や工藝品、家具、空間まで、一つひとつに人の手の温もりが感じられます。ここでは工藝は展示されるものではなく、日々の暮らしの中で使い、味わい、受け継がれていくものなのだと気づかされます。
いただいた「おくみどり」は、爽やかな香りとやさしい甘みが印象的な一杯。二煎目は味わいがやわらかく変化し、お茶とゆっくり向き合う時間の豊かさを教えてくれます。ブレンドコーヒーも、フルーティーな香りとすっきりとした後味が心地よく、一杯ずつ丁寧に淹れられていることが伝わってきます。季節のフルーツを添えた固めのプリンは、甘さ控えめ。口に運ぶとなめらかにほどけ、素材の持ち味を生かしたやさしい味わいです。どのメニューにも共通しているのは、余計なものを足さず、素材と向き合い、手間を惜しまないこと。その姿勢は、工藝品を生み出す手仕事ともどこか重なります。
建築の仕事に携わってきた店主が手がけるこの空間には、細やかな美意識がありながら、肩ひじ張らない心地よさがあります。器を選び、お茶を淹れ、料理を仕上げ、お客さまを迎える。その一つひとつの所作まで含めて、この店の「工藝」なのかもしれません。歴史を巡った旅の最後に、人の手が生み出す豊かさに触れながら、ゆっくりと余韻を味わいたい一軒です。

コーヒーだけでなく、紅茶、和紅茶、季節限定メニューなど、こだわりのメニューが揃っています。

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  • 5限目:明治文化学
  • 6限目:日光ミステリー学
  • 7限目:いちご王国学
  • 8限目:幸福学